ぼんやりと天上を見つめる。
(身体熱ちィ)
覚束ない足で立ち上がろうと心見るも
身体が言う事を聞いてくれない。





風邪かなぁ。今街で流行ってるしなぁ…
ロイは大丈夫かな。

隣を見てみる。そこにロイの姿は無い。
テーブルを覗いても車の鍵は無い。
あ、良かった。先に出勤したんだ
今日俺午後からだから
(じゃ、なくって)
電話、掛けなきゃ
休むって

駄目だ
身体が動かない。電話の場所まで行く自信も気力も無い。
俺の出勤時間はとっくに過ぎている。ロイは心配してくれてるかな

ジリリリ…リリリ…

(電話鳴ってら…)
取らなきゃ。ロイからかも…取らなきゃ。
手を目一杯延ばして見る。届く筈の無い距離だけれども。
延ばした手のせいで俺は盛大に頭からベッドに落ちる。
電話の音は消えていた。
(痛ぇ…)
足だけがベッドに残されて。
ベッドに戻る気力も無く其の間々床に寝転んだ。
そういや前床でヤろうとしたら怒られたっけ。硬いから嫌だって…
でも俺は凄い余裕無くて今直ぐにでもシたくて…

はは…
(ロイ)
風邪のせいか俺の本能か淋しくて淋しくて笑える程仕方が無い。
本当に笑ったら泣きそうに為りそうだ
(ロイ…)
今直ぐにでも会いたい。
顔、見たい。ぎゅうっと抱きしめて、キスして、どんどん深くして行ったりして
そしたら涙目に為って頬を赤くして上目でこちらを見て来るんだろうな
堪らない
本人は気付いてるのかな
計算?素?
どちらでも可愛いけれど。

ロイ。ロイに会いたい
顔、見たい。ぎゅうっと抱きしめて、キスして、どんどん深くして行って。


ん…?
寝てたんだ…
(あ、あれ?)
キッチン電気付いてる
昼間明るくて気付かなかったのかな…?
昨日の消し忘れ?

あ。

まさか。
まさかな。
ほんの一握りの期待。
ふらつく足でキッチンの電気を消そうと歩み寄る。
まさかな。
唯の消し忘れだよ…期待するな。


……まさか……な
夢なら如何か覚めないでくれよ
ふらふらしてテーブルの足に自分の足をぶつけた。
(あ、夢じゃ無ェ)
じんじんと鈍い痛みを伴いながら先程見えた会いたくて仕方が無かった愛おしい恋人の姿を見直す。

「ロ………イ…」
「わっ、ハボッ…何だ、起きたのか?良いから、寝てろ」
「へ、ちょ…、え…」

ぐいぐいと肩を押されてベッドまで押し戻されてしまった。
折角会えたのに…顔、見れたのに
ぎゅうっと抱きしめて、キスして、どんどん其れを深くして行きたい。
残業は免除されたのだろうか、鬼の副官が許してくれたのだろうか?
(…いいや、こんな事。別にいっか…)
ロイの手料理なんて風邪の時位しか食せないし…
ロイの料理の腕前は結構良い。
錬金術は台所から生まれたと言う人も居るらしいし、錬金術師は皆料理の基礎さえ解れば巧いのだろうか?
以前健康な時に一回頼んでみたが面倒臭いだの、ましてや“お前の料理が食いたい”と何とも可愛い応えも帰って来て。
結局ロイの手料理は食せなかった。
でも、女性に振る舞う為に身に付けたと言ってたし、男でロイの料理を食したのは俺だけだと考えると妙に嬉しく為る。女性が気に入らないけどな。
ま、今は女なんかロイの側寄らせねぇ
誰も、必要以上に近寄らせない
(ロイの心に入って来るな−−……)



「ハボ、飯出来たけど食えるか」

ロイがの声ではっと正気に帰る。
(あ、やばいやばい)

「食う、食います」

卵粥だろうか、ロイが持ってる器から良い香りが漂う。
こんな絶好のチャンス、例え食欲が無くても食ってやるさ
じゃないと損だ。
両手を出して頂戴とねだるとロイはくすりと笑ってベッドに座る俺の横に来る。
(鳴呼、ぎゅうっと抱きしめて、キスして、どんどん深くして行きたい)

「食えるか?」

無理しなくても良いと心配そうに言う。
うん、大丈夫、全然。

「平気です、折角の貴方の料理。」

食えない筈が無い

「一人で食えるか?」

(……?)
ん?一人で?
あれ、此れはもしかしなくても食べさせてくれる雰囲気?
いや、真坂な、いやもしかして。

「…無理…、かも」

少し胸に期待を膨らませて。
もしかしたら、なんて

「…口、開けろ」

少し頬を紅くしてスプーンに粥を乗せながら呟く。

言われたとうり口を開けたら木の丸みの有るスプーンと程よく冷まされた粥が口内に入ってくる。
(鳴呼、美味ぇ)
実は気を使ってくれてるんだな、と感じる。普段は結構そうには見えないが…。(そんな所も可愛くて仕様が無いけれど)

「美味いか?」
「凄く、美味しい」

笑顔で。本当の事だもの
本当、安心したような顔をして
可愛いくて仕方が無い
可愛い。ロイ、可愛いよ
可愛い。
ねぇ、ロイ、愛してるよ。愛おしいよ

「ロイ」

ぐいっ、とロイの腕を引き自分の方へ引き寄せる。
ぎゅうっと抱きしめた。
髪を撫でて、キスをする。
何度も、何度も角度を変えて
(堪ん、ねェ……)
舌を絡めて掻き回して。
夢中に為って貧る。

「んっ、ふ、ぅ」

口を離せば透明な糸が名残惜しそうに二人を繋ぐ。
苦しそうに肩を上下するロイが俺のシャツの端っこをぎゅう、と握る。

「風、邪…移る、馬鹿」

あ、御免
すっかり忘れてた
唾液でも菌が移るんだったか

「ロイが風邪ひいたら俺が看病してあげます」
「馬、鹿…」

風邪ひいたら、二人だけで過ごせるし
朝から晩まで、晩から朝まで。

「ねぇ、ロイが食いたい」

首筋をつぅ、と舐めて。


キスして、どんどん深くして行った。

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